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空虚な検討委員会
6月5日(月)に開催された、第27回「県民健康調査検討委員会」。わたしは、これまで毎回、ネット中継で視聴していましたが、今回、初めて会場に行って生で検討委員会を傍聴しました。検討委員会を生で傍聴をした感想は、星座長は言葉は多いが、菅官房長官の十八番とも言える「~には当たらない」と同じように、議題の核心について、はぐらかしている印象が強いということです。また、安倍首相の答弁のように、質問に答えるわけでなく自説を開陳して時間稼ぎをしているようでもあり、聞いていて精神的に疲れました。特に、記者会見での記者とのやり取りにおいてその印象が強く、疑問を解消するために記者会見を開いているはずなのに、何のために行なっているのか分からなくなりました。
具体的な例を上げると、事故当時4歳の子どもから甲状腺がんが発症したということが上げられます。これは、今年の3月中旬、「3・11甲状腺がん子ども基金」※1が事故当時4歳の子どもから給付金申請があったため、それを確認するために県立医大に照会したことで、公表されている以外にも甲状線検査関連の癌患者がいたことが発覚した件です※2。この照会によって分かったことは以下のようになります。
甲状腺検査で要精密検査になり、そこで手術ではなく経過観察に回った場合、その後、悪化して手術を行なっても、悪性ならびに悪性疑いの人数に数えられないということです。この第27回検討委員会を含め公表された、195名の悪性ならびに悪性疑いの人数以外にも患者がいたことで、これまでの検査デザインが破綻していることが分かりました。清水一雄委員からは、191名の報告から外れた、悪性ならびに悪性疑いの人数を検討委員会の遡上に載せなければ今までの議論の根底が覆るという指摘ががあり、また、津金昌一郎委員や梅田珠実環境保健部長からも疑問や批判が出ました。このように各委員から批判的な意見がなされた上で、記者たちからも、福島県や県立医大の責任を追及する質問が相次ぎました。しかし、星座長からは、まず、両者を擁護するような言葉があり、それを受けて福島県や医大が釈明するような展開になっていました。先述したように、わたしにはまるでそれが、菅官房長官の「~には当たらない」論法のように見えました。外部からの指摘によって判明したということは、明らかに事務方の失態でありながら、星座長からの話の流れはこの事態が大したことはないという雰囲気を作っていて、議論に深みが出ませんでした。
【例】
報ステ記者「2年前の評価部会で、鈴木教授が経過観察から医療診療に移ってしまったケースは別建てで報告しますと言っていましたよね?」
星「いやぁ、わたしの認識ではそんなふうな感じではなかったと思うんですけどね。ねぇ(と言って県に振る)」
また、今回から突然、三巡目での悪性ならびに悪性疑いの患者の居住地が、浜通り・中通り・会津及び避難13市町村の4ブロックでまとめたものに変更がされて発表になりました。そして、県立医大側からは、今後もこの方式で発表していきたいとの申し出がありましたが、清水修二委員から「重大な変更にも関わらず、いきなりの検討委員会への口頭での制度変更の説明は、県民への信頼性が失われる」と非難の声が上がりました。しかし、ここでも星座長は、各委員から一通り意見を出してもらった後に、継続審議にしましょう、と先延ばしにしました。このように、検討すべき議題の多くが「3ヶ月後の検討委員会で答えてもらいましょう、継続審議をしましょう」という展開で話が流されていきました。195名の悪性ならびに悪性疑いの患者が居るのに、このスピード感のなさでは、何のための検討委員会なのでしょうか。
わたしは、SPEEDIの情報を的確に公開できず、安定ヨウ素剤の服用を禁止した福島県と、職員ならびに関係者だけに安定ヨウ素剤を配布した県立医大はある意味で加害者ではないか、と思うときがあります。そして、その筋に沿っていえば、福島県と県立医大が、この甲状腺検査を仕切っているのがおかしいと言えます。6月5日の検討委員会で判明したとおり、どこにも諮らずに発表するルールを変えることが可能なのだから、絶対に負けないゲームと言っていいかもしれません。この詳細な事実を県民が知れば、不信感が高まり、甲状腺検査を受けたくないと思うのに十分かもしれません。福島県は、ここ数回の検討委員会で、検査縮小の方向に持って行きたいと思わせるものがありました。ひょっとして、こういった不手際も計画的にやっているのでは?と邪知をしたくなった日でした。
(あべひろみ)
※1 特定非営利活動法人 3・11甲状腺がん子ども基金
URL:http://www.311kikin.org
「チェルノブイリ原発事故後、子どもたちの間で小児甲状腺がんが急増しました。福島県民健康調査でも、多くの子どもたちが甲状腺がんと診断され、手術を受けました。リンパ節転移や遠隔転移、再発など、深刻な症例が報告されています。福島県外においても、自治体や民間の自主的な検診により、子どもたちの甲状腺がんが報告されています。政府は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響による健康被害は起きないとしており、包括的な支援策が一切とられていない状況です。
こうした中、甲状腺がんと診断された子どもと家族は孤立し、度重なる診察や通院費用などの面で経済的に困窮したり、進学、就職、結婚、出産などの度に壁にぶつかったりしています。また再発や転移により、一生、治療と向き合わなければならないケースも出ています。
このような状況を解決するためには、治療費や通院費などの給付を含めた経済的支援はもちろん、多様かつ継続的な支援体制が欠かせません。また被曝による健康影響には、甲状腺がん以外の甲状腺疾患や白血病などの血液系のがん、乳がんを含む固形がん、非がん系の疾病など、様々な病気があり、これらの健康被害を見据えた上での、調査や対策が必要です。
「3・11甲状腺がん子ども基金」は、独立性の高い資金によって、甲状腺がんの子ども等を支援するとともに、原発事故による健康被害状況の調査・把握を行っていきます」
[組織概要より]
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