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「本人の責任でしょう。本人の判断でしょう」
4月4日から26日にかけて、復興大臣の発言によって、被災地を始め、避難者が居住する各地に波紋が広がりました。以下の文章は、その渦中の4月13日に書いたものです。
[ 2017年05月14日追記 ]
新年度になり、双葉町と大熊町を除く四町村の避難指示が解除されましたが、その直後の4月4日、閣議後に行なわれた今村雅弘復興大臣※1の記者会見で、避難者が避難を継続するのは「自己責任」だという言葉が大臣から発せられました。これは、記者会見に出席したフリージャーナリストの西中誠一郎氏からの質問に答えたなかで出てきた言葉です。
復興庁から出された『今村復興大臣閣議後記者会見録』はかなりの分量がありますが、一読をお勧めします※2。ただ、最後の部分が書き起こしされていませんでしたので、その部分のみ書き起こしました※3。
今村復興大臣は西中氏からの、自主避難者に対して国はどのような責任を取るのかという質問に対して、「自己責任」と明言しました。しかし、子ども・被災者支援法※4の第二条の2では、
『被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない』
としています。今村復興大臣の発言は、被災者(自主避難者)のいかなる判断も国が支援すると明記した法律と乖離しており、そこを西中氏に突かれたわけです。本質を突かれたために、彼は激昂するしかなかったということになります。
しかし、報道ではその本質の部分については、深く報じられませんでした。福島県内の地元紙でも、自主避難者の避難の継続支援という文脈のためか、今村復興大臣の発言を批判する紙面展開はされません。旧民主党政権時代の鉢呂経産大臣が「死の街」発言で辞任させられたときとは大違いです。「死の街」という言葉は、強制避難をした住民たちを傷つけたとして、福島民報・民友の両地元紙(及び、全国紙)とも、鉢呂元経産大臣を徹底的に批判しました。しかし、今回の「自己責任」発言については、福島県庁の広報紙の性格が強い地元紙は共同通信の配信記事を載せるだけで、社説で今村復興大臣及び、彼を任命した安倍総理大臣を批判するということはありませんでした※5。
福島県にとっては自主避難者が、復興という前進をアピールするイメージに対してマイナスであり、風評被害の一端を担っていると考えているからです。福島県が本当に「自己責任」発言を問題と思うなら、「美味しんぼ」のときの『鼻血』のように抗議声明を出すはずですが、まったくその気配はありません※6。
そして、今村復興大臣は記者会見以前に、これまでも3月12日放送のNHK日曜討論で「古里を捨てるというのは簡単」「(避難元に)戻って頑張れ」といった発言をするなど、その言葉の軽さ故に、「死の街」発言よりも、はるかに避難者を傷つけてきたと思います※7。
しかし、“自主”避難者は自己責任だ、という言葉に対する抗議は、前述した福島県の態度にあるように、福島県内の人たちに共感を呼びにくいのも事実です。多くの人が子ども被災者支援法の、避難をする人も、しない人も等しく支援するという理念を知らないこと※8。そして、子ども被災者支援法の理念にのっとった施策が適切に行なわれないことで、支援(お金)の有無が発生し、住民のあいだに分断が生まれているからです。
復興庁のトップ自らが、「自己責任」という言葉を発して、この国の復興行政の考えがあらためて露呈しました※9。片方で避難者に対してのいじめを問題視しておきながら、避難者に対しての一番のいじめをしているのは国ではないかと思いますし、正直、くやしい想いにかられます。今までも、何度もこの気持ちを味わってきました。実際、気持ちが下がってしまうというのはありますし、これが国の統治のやり方なのかもしれません。しかし、これに負けずに、ねばり強く活動を続けなければと思います。わたしたちには六年間続けてきた実績があり、それを次の世代に引き継ぐ責任もあります。継続は力なり、ですから。
(あべひろみ)
※1 今村雅弘氏は4月26日付で復興大臣を辞任したが、この項を「ふくしま30年プロジェクト通信Vol.26」用に書いていた4月13日時点では辞任をしていなかったので、ここでは今村雅弘復興大臣の表記で統一しておく。
※2
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※3
一礼して退出しようとする。
(問:西中) これはちゃんと記述に残してください。
(答:今村) どーうぞ!こんなね、余計な、人をね、中傷誹謗するのは許さんよ。絶対!
(問:西中) 避難者を困らせているのはあなたです。
退出しながら。
(答:今村) うるさい!
(問:西中) 路頭に迷わせないで下さい。
[ 以上、あべ書き起こし ]
※4 子ども・被災者支援法
東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(とうきょうでんりょくげんしりょくじこによりひさいしたこどもをはじめとするじゅうみんなどのせいかつをまもりささえるためのひさいしゃのせいかつしえんなどにかんするせいさくのすいしんにかんするほうりつ)は、東京電力原子力事故による被災住民等の生活支援を目的とした法律である。略称は、原発事故子ども・被災者支援法、原子力事故子ども・被災者生活支援法、子ども・被災者支援法、原子力事故被災者支援法などと呼ばれる。 同法は、理念法ともプログラム法とも言われ、国が具体的な基本方針を定めることとなっている。[Wikipediaより]
チェルノブイリ原子力発電所事故により放射性物質で汚染された地域の法制度に関するウクライナ国家法(1991年)を参考に2012年6月27日に成立し、即日施行された。また、理念法であるため、成立後の施策は官僚が担ったため、実際には被災者を支援することのない、骨抜きの法律と言われる。
※5 東北ブロック紙である河北新報2017年4月11日に「今村復興相発言/強まる政権全体への不信」と、福島県地元紙の代わりに社説を掲載。また、読者からの投稿欄には、福島民報・民友ともに、今村復興大臣への批判が掲載されている。
※6 <復興相発言>福島知事「細心の注意必要 河北新報 2017年4月11日
自主避難者への支援の在り方で今村氏が「(支援が不十分ならば)裁判でも何でもやればいい」と発言したことに関し、「県としてのコメントは無い。大臣自身の発言であり、政治家として説明責任を果たしてほしい」と語った。
内堀知事は、問題の核心である部分にコメントしないとしている。また、自治体としては2017年4月7日に、川俣町議会が今村復興大臣の辞任を求める抗議声明を採択し、安倍首相と復興相宛てに送付。しかし、2017年4月13日現在、これ以外に明確な動きをしている自治体はない。
※7 本文記載以外の今村復興大臣の暴言・放言
今村復興大臣閣議後記者会見録(平成28年11月25日)
(問)今、冒頭の発言で、これから産業・生業の再生に向けた予算を作るというお話がありましたけれども、その中で手取り足取りではなくて、自分たちが何ができるか考えろ、というお話がありましたけれども、先日、福島県知事からの要望の際に、気力が足りない、というようなことをおっしゃっていましたけれども、大臣の方からは、手取り足取りと見えているわけですか。何が足りないと思いますか、被災地に。
(答)今、福島でせっかくこうやっておいしいもの、米だって、良いもの、絶対安全なものを作ってあるのだけれども、いまだに稼得は低い。だから、それがいろいろな宣伝もやっていますけれども、やっぱりもうちょっとこれを深化していく必要もあるのではないか。例えば、果たして消費者のところにそういう「世界一安全ですよ」ということが届いているのかどうか。例えば、そういったことも含めて、どんどんいろいろな活動をしてもらえるのではないかなと。そのために我々もしっかり応援はするからと、そういうふうに言っているわけです。
要するに基盤整備の土木工事は、予算を付けてトンカチやれば比較的できるわけです。だけど、やはりビジネスになってくるようになると、なかなかこれを買えと強制的に我々が言うわけにいかないわけだから、やはりそれは生産者の方の努力というのが、まだまだ私は必要ではないかなと考えます。
(問)県産品を販売する上で、地元の努力がもう少し必要だということをおっしゃりたいということですか。
(答)そういうことですね。もっとやってもらっていいのではないか。
福島復興再生協議会 復興相「マラソンなら30キロ」
毎日新聞2017年1月29日
東京電力福島第1原発事故の復興について内堀雅雄知事や関係閣僚らが議論する福島復興再生協議会が28日、福島市内であり、議長を務める今村雅弘復興相は冒頭のあいさつで「福島、東北の復興も3月にはいよいよ7年目に入る。マラソン(42.195キロ)でいうとだいたい30キロ地点ぐらいにきているのかなと、ここが一番勝負どころ」と復興の進行状況を表現した。
※8 2012年6月に、超党派の議員立法で子ども被災者支援法が成立してから、この法律が市民に周知されるようなことはなく、多くの人が存在を知らない。また、自民党が政権に復帰してからは、子ども被災者支援法立法のために組織された『子ども・被災者支援法議員連盟』に参加していた自民党所属議員は、これに距離を置くようになった。
※9 今村復興大臣は、事実上「自己責任」発言を謝罪撤回したあとも、 4月11日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で、以下の答弁をした。
原発避難「自主判断にも当然、責任ある」 今村復興相 朝日新聞2017年4月12日
今村雅弘復興相は11日の衆院東日本大震災復興特別委員会で、原発事故の自主避難者が故郷に帰れないことを「本人の責任」としていた発言を改めて取り消し、「自主判断」と言い直した。ただ、「自主判断にも当然、責任はある」と付け加えたため、質問した高橋千鶴子氏(共産)から「やはり分かっていない。復興相を辞すべきだ」と求められた。
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