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帰還困難区域の火災
帰還困難区域である、浪江町井出地区の十万山で発生した山林火災は、4月29日夕方から5月10日までの12日間の消火活動を要して、ようやく鎮火しました。これまでも、帰還困難区域内の常磐道や国道六号線で交通事故があった場合の対応をどうするのか? 大地震や、それに伴う津波が発生したときの避難計画は? どれも、実際にことが起こってから問題提起がされて対応策を練っていくという流れでしたが、この帰還困難区域で起こった山林火災 = Wildfireも様々な課題を浮き彫りにする結果になりました。
この火災は、発生した翌日の4月30日朝7時に、福島、宮城、群馬3県の消防防災ヘリコプター3機による消火活動によって一旦鎮圧しましたが、強風によって再び燃え上がりました。以降、連日、消火活動についての報道が続きます。
帰還困難区域という立ち入り制限の区域ということもあり、消火活動はヘリコプターを使っての散水が中心になりました。また、山へ入っていくことが難しくなった原因は空間線量が高いという理由以外にも、長期間、人が山に入らなかったために山道が荒れて、行く手を阻んでいるということもあったようです。この件については、河北新報5月6日で報じられています。
上空からの散水だけでは消火しきれませんので、地上での消化活動も必須です。『延焼場所は最寄りの公道から徒歩で1時間半程度かかる山間部。住民の避難が6年以上続いていることもあり、山道は手入れが行き届かない。当初は倒木が消防隊の行く手を阻んだ』(同記事より引用。以下、『』内の文章は引用になります)。また、高線量地域であるため、放射性物質が衣服に付着しないための対処もします。『隊員はそれぞれ、通常の活動服の下に白い防護服を着用。放射性物質の吸入を防ぐためのマスクは息苦しく、疲労感を増幅させる。下山後には、休憩前に被ばく線量を計測する列に並ばねばならなかった』。消火活動時に、通常の装備の下に防護服とマスクを着用しなければならないのは、後述する放射性物質の飛散にもかかってくることです。この記事は最後に『福島県は原発事故後、避難区域で山林火災の訓練を重ねてきた。だが、出火の想定は民家に近い里山。担当者は「ポンプ車が入れない山あいでの活動は想定していなかった」と語った』で締められます。ここでまた、『想定していなかった』という6年前の原発事故以後、幾度となく聞いた言葉が出てきました。
もう一点、情報の出し方についても触れます。福島県は、この火災の消火活動のあいだ、「周囲の空間線量に変化はない」という発表を続け、メディアもその通り報道を続けました。それに反してネット上では、帰還困難区域で山林火災が起こったということで、当初から放射性物質の再拡散が懸念されました。それにいち早く反応したのが福島民友です。5月3日の紙面で、『浪江 山火事デマ拡散』と大きく取り上げました。この中で、山林火災によって再び首都圏に放射性物質が飛来するから注意といったネットの書きこみをデマの例に上げています。確かに今回の山林火災によって巻き上げられる放射性物質の量と、福島第1原発事故時に放出された量を比較すれば圧倒的に山林火災のほうが少なく、首都圏まで飛来することはないでしょう。よって、そのようなことをデマと言ってしまっても構いません。しかし、火災によってこの6年間降り積もった腐葉土が燃え、そこから放射性物質の再拡散が起こることは、容易に想像がつくことです。首都圏への放射性物質拡散はデマとしても、火災現場近辺への再拡散をデマと言ってしまうのは、あまりにも乱暴と言えます。
その後の5月9日、福島県は集塵機によって空気中に漂うセシウム137を集めて測定した結果について、数値がそれまでの約3~9倍に上昇したことを発表しました。この数値について報じたのは、翌日の毎日新聞福島版だけでした。3~9倍に上昇した数値の内訳は『県放射線監視室によると、浪江町井手のやすらぎ荘が1立方メートルあたり3.59ミリベクレルで3.23倍▽双葉町石熊の石熊公民館が同7.63ミリベクレルで8.98倍▽大熊町野上の野上一区地区集会所が同1.35ミリベクレルで3.86倍』ということでした。これについて、県放射線監視室は『健康には問題ない数値。強風により、測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できない。詳しい原因を調べる』というコメントも出しており、再飛散は無いという姿勢から後退しました。また、この程度の数値の上昇によって空間線量への影響が出ることはありませんが、火災現場では実際に放射性物質の飛散が起こったことが数値の上で確認できたことになります。
グラフを拡大して見る
[ 浪江町井手地区の林野火災現場周辺の環境放射線モニタリング状況等について(5/17)より ]
※上記グラフは、福島県から公表された5月16日までのモニタリングデータで作成しています。5月12日に石熊公民館(双葉町)でセシウム134 3.29ミリベクレル/立法メートル、セシウム137 25.47ミリベクレル/立方メートルと最高値が更新されました。
空間線量に影響が出るほどの放射性物質の動きがあるとすれば、それは、その元となる福島第1原発に何かがあったときでしょう。今回の山林火災での飛散では、空間線量の変動に影響を与えるほどのことはないかもしれませんが、放射性物質の動きに対しては注意深く見ていかなければならないはずです。なぜなら、福島第1原発事故による「原子力緊急事態宣言※」は未だ解除されていないのです。今回も「緊急事態応急対策を実施すべき区域」内である帰還困難区域で起こった山林火災であるにもかかわらず、市民に無用な不安を抱かせたくないということから、極度に安全性を強調したのでないか。ここにも6年前の事故時と同じく、予断を持たずに対処する態度が見えなかったと思われます。『想定外』と『予断を持たない』。6年前に学んだ教訓を、今回も生かすことはできなかったのではないでしょうか。
(あべひろみ)
※ 原子力災害対策特別措置法(げんしりょくさいがいたいさくとくべつそちほう)は、原子力災害が放射能を伴う災害である特性に鑑みて、国民の生命、身体及び財産を守るために特別に設置した、日本の法律である。
1999年9月30日の東海村JCO臨界事故を動機に制定され、1999年12月17日に施行された。特に内閣総理大臣が原子力緊急事態宣言を出した場合、内閣総理大臣に全権が集中し、政府だけではなく地方自治体・原子力事業者を直接指揮し、災害拡大防止や避難などをすることが出来るようになった。
[ Wikipediaより]
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