実際に住み、子どもを育てている立場だからこその意見
— オリンピックと福島は関係している?
佐原 オリンピックを呼んで成功させるためには、問題をさらに、できるだけ隠そうとするのは目に見えています。「答えありき」と言いますか、それは日本の社会がそうなっていることもあるし、福島自体にしても、「問題は風評被害だけにしたい」という力が大きい。そのダブルの働きで、余計そうなっていくんだろうなと思います。
理想は、市や県が国に意見できればいいんですが、全然そうではなく、両方同じ意見なので、ますます「不安を口に出せない状況が進む」と思います。
— 逆に、社会の中で「頼もしい」、「ありがたい」と思う動きはありますか?
佐原 今回、5年の節目で受けた取材が集中していた中で、インタビューの内容で、ある程度「どっち側の話を聞きたがっているか」ということがわかる感覚がありました。
例えば東京新聞さんとかだと、福島の状況について意見の違うお二方の学者さんを載せて、そこに自分を入れることで、複雑で一概には言えない、住人としての意見をそのまま載せてくれて、それはネット上でも一番「ごもっとも」という意見がありました。実際に住み、子どもも育てていて、という立場だからこそ納得していただけたという意見があって、そこは伝えたい部分でしたので、よかったと思っています。
あとは、福島の難しい状況がなかなか県外に伝わらない中で、コンビニでも売ってる大手女性ファッション誌なんかが取り上げてくれて、それを県外の「福島、もう問題ないでしょう?」と思っていた女性たちが読んでくれたようでした。それも、そのまま不安を感じている部分ごと載せてくれて、ありがたかったです。
かたや、某公共放送(笑)さんの取材では、使う言葉を指示されて、「ホットスポット※16」とか「低線量被ばく」といった言葉は「よくないので、やめて欲しい」と。その時の伝え方としては、測定も「安全を確認するためにやってる」という切口でしか取り上げてくれなかったりしました。
でも、それは今や珍しいパターンで、そもそも、あんまり危険とか不安だとかの内容を載せたくない媒体が私に話を聞いてくること自体、もう少ないんです。私を目指して来てくださる方は、基本的には「現状をそのまま伝えて欲しい」という方が多いので。
— ふくしま30年プロジェクトの、組織運営の苦労や今後の展望はどういう風に捉えてますか?
佐原 繰り返しになりますが、現時点では世界のどんなに詳しい専門家でさえも、長期にわたる低線量被ばくの影響を厳密には把握できていません。今後もし仮に何らかの身体への影響、名前も付かないような骨や筋肉などの疾患や、それこそぶらぶら病※17と言われる症状などが表面化した時、それまでの測定データすら残っていないのでは、私たちはただの犠牲になってしまいます。
こんな事態を世界中の誰にも、二度と体験して欲しくありません。ですから、私たちはできる限り測定と、違う意見を持つ方々と話し合うことも続けていくつもりです。
そして市民が分断なく、暮らしやすい環境を整えていくためのサポートをしていきたいと思っています。
[ 2016年8月6日 正確を期すため、佐原の発言のなかで「国営放送」となっている部分を「公共放送」へ訂正いたします。 ]
※16 ホットスポット
ホットスポット(英: Hotspot)とは、局地的に何らかの値が高かったり、局地的に(何らかの活動が)活発であったりする地点・場所・地域のことを指さすための用語で、具体的には以下のような場所を指す。
ホットスポット (汚染物質) – 汚染物質が大気や海洋などに流出したときに、気象や海流の状態によって生じるとりわけ汚染物質の残留が多くなる地帯のこと。汚染物質の種類や流出理由は問わない。
(Wikipediaより放射性物質に関する部分を抜粋)
ここでのホットスポットは、東京電力福島第1原発事故によって環境中に放出された放射性物質が、上記のような動きにより集積し、局所的に空間線量が高くなる地点のことを指す。
※17 ぶらぶら病
原爆ぶらぶら病(げんばくぶらぶらびょう)は原爆症の後障害のひとつ。体力・抵抗力が弱く、疲れやすい、身体がだるい、などの訴えが続き、人並みに働けないためにまともな職業につけない、病気にかかりやすく、かかると重症化する率が高いなどの傾向をもつとされる。
広島市への原子爆弾投下後、市民のあいだで名付けられ、医師の肥田舜太郎が被爆患者の臨床経験をもとに研究してきた。肥田によると、当時よく呼ばれていた”ぶらぶら病”の状態が続き、医師に相談していろいろ検査を受けてもどこも異常がないと診断され、仲間や家族からは怠け者というレッテルを貼られたつらい記憶をもつ者が少なくないという。
(Wikipediaより)