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20172/17

「君の名は。」 その1

 東日本大震災から5年が経過した2016年は、あらためて、あの出来事を見つめ直す映像作品がいくつも発表された年だった。6年前の震災・原発事故は私たちの人生を一変させるできごとだったが、日々の生活のために多くの人にとっては、それがどれほどのものであったのか考える時間が取れないでいると思われる。よく、復興が進まないことと、街の活気が戻らないことがイコールのようにいわれるが、あの体験を咀嚼できないことも、人々が活気づけない原因の一つではないだろうか。
 だが、逆に被災地から離れたところにいるクリエーターたちにとっては、この時間の経過は創作の醸成期間でもあったようだ。上述したように2016年は、東日本大震災をモチーフにしたエンターティンメント映画のヒット作が出た年だった。これは、ドキュメンタリー以外の映画が震災をモチーフにできるようになったことが大きいと思われる。それらの作品には、風化しつつあった震災、原発事故の影があり、それだけにわたしたちは、作中の人物の行動に共感した。そして、それをきっかけに自らのなかにあったことを言語化するきっかけを得るなど、映像が持つ力によって気付くことがいくつもあった。
 その中の一つが「君の名は。」だった。原作・脚本・監督は新海誠氏。メジャーデビュー作である30分のオリジナル短編アニメ「ほしのこえ」(2002年)を1人で作り上げたことで注目された。その後は普通のアニメ制作と同じように複数スタッフで作ることになるが、テーマや制作姿勢は変わることがなく、日本のアニメ界では珍しい作家型タイプではないだろうか。そして、彼の物語の構造はボーイ・ミーツ・ガールであり、デビュー作のころに流行っていたセカイ系だといわれる。
 わたしが、最初にこの作品の存在を知ったのは「シン・ゴジラ」上映時に流れていた予告だった。そのとき予告で流れた絵から、『現実世界と異世界のパラレルワールドを舞台にした、少年少女の入れ替わり』というプロットを連想し、まったく興味がわかなかった。そして、「シン・ゴジラ」を観るために複数回劇場に通い、そのたびに「君の名は。」の予告を観たのだが、結局、本編を観るまでピンとくることはなかった。それが一転観ることにしたのは、わたしがTwitterでフォローしている人が、公開直後の金曜日の夜に、『おもしろい』と呟いていたからだった。それで興味がわき、8月28日(日)夜の最終の回を観に行った。

 前半を観ての感想は、大林信彦監督の「転校生」(1982年)を連想させる、ベタな少年少女の入れ替わりものだった。そのコメディタッチの描写が新海誠監督らしくないと感じたが、作劇としてはうまく作用していて、劇場で度々笑いが起きていた。ただし、わたしが興味を持ったのはストーリーよりも画面作りだった。クローズ画面でのカメラのピント処理や、水面のきらめき、背景美術といった技術面を注意深く追いかけた。
 この映画の絵作りは、エフェクト処理や加工をやり過ぎずに、炎や水といった自然現象を手描きで行ない、平面であるキャラクターの絵と背景のマッチングを心がけている。かつて、アナログのセルアニメと呼ばれた時代。それは、セル画と呼ばれる平面のプラスチック板をポスターカラーで描いた背景の上に乗せ、それをフィルムに収めることで一つの絵として完成させていた。わたしは、そのなかでもっともセル画と背景のマッチングが見事な作品として、「ルパン三世 カリオストロの城」をあげたい。大塚康生氏の描く(厳密には宮崎駿監督も手を入れている)柔らかいタッチと、小林七郎率いる小林プロの美術は、ベタ塗りのセル画と絵画調の背景といった異なるマテリアルなのに、一体感がある絵作りとなっていた。それは、映像としてフィルムに収める際に、被写体(セルと背景)とレンズのあいだに実際に空間があることが大きい。生のセル画や背景を見るよりも、フィルムに上がったもののほうが良く見える。短所を目立たなくして、長所を伸ばす。フィルム撮影には、そういった味があった。
 しかし、19年前に一大転換が行われ、アニメはフィルムからデジタルの時代になった。そこでは、フィルムのときにあった画面の中の空気感というものは無くなり、スキャナーのスキャン面に押し付けて撮ったような、まさに平面の世界になってしまった。デジタルアニメになって、これに抵抗を感じた作り手は、長らくフィルム時代の絵の味を再現しようとして試行錯誤を繰り返してきた。そのなかで、逆にデジタルならではの平面としての絵作りを目指すものもあったが、引き続きフィルムでの絵作りの再現を目指す方向は続いた。そして、初のデジタルアニメのTVシリーズが放映されてから19年、「君の名は。」の登場によって、ついにキャラと背景が一体になり、フィルムの味を再現したアニメ作品ができたのではないだろうか。これは、言葉でいくら言っても伝わらないことなので、百聞は一見に如かず、本編を観てもらいたい。
 また、キャラクターの絵についても、元になっているデザインと映画本編の絵では違っていて、このことも先述の絵作りに関係していると思われる。キャラクターデザインとしてクレジットされているのは、最近の流行の絵を描く田中将賀氏だが、彼が実際に手を入れているのは、冒頭のオープニングのみである。スタジオジブリ出身の安藤雅司氏が作画監督として本編の絵面やキャラの演技を見ているが、生活芝居を含めたアニメ―トが素晴らしい。そして、わたしにとっては流行のアニメ絵と、旧東映動画から繋がるスタジオジブリのタッチの融合が、非常に魅力的に見えた。
 アニメ業界には、スタジオジブリとそれ以外という、決して交わらない流れがあったのだが、ジブリの制作部門閉鎖ということにより、新しい流れができたのではないか。かつて、ヤマトやガンダムが作られた時代も、旧虫プロやタツノコプロのスタッフが流出したことにより、業界内のスタッフの動きが活発になった。そういった流れもあって、エポックメーキングな作品ができたのかもしれない。今回の「君の名は。」も、そのような化学反応が起きたのではないだろうか。映画の前半を観ながら、そんなことを考えていた。  

(つづく)

 

(あべ ひろみ)

 

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